生前整理、という言葉が近年だいぶ普及してきました。人生の終わりに近づいた高齢者が、元気なうちに自分自身の所持品や財産を整理してしまう…というものです。私自身は30代ですが、以前それとは知らされないうちに、生前整理をお手伝いした経験があります。
ごく若い頃、地元の家族小企業でアルバイトをしていた時のことでした。60代の社長に気に入られていたのですが、時々「整理をするから」と掃除道具を持たされ、一緒に蔵や物置・棚の整頓作業をしました。
社長はカエルの民芸品が大好きで、びっくりするほど多くのコレクションがあり、一緒に掃除・整頓させられるのもほとんどがカエルでした。私自身もカエルが好きだったので、「いい表情してますよねえ」などと言うのが社長は嬉しかったのだと思います。
掃除をして場所がきれいになり、段ボール箱に入れたカエルは全て処分されることになりました。その箱から社長は無造作に何点かを引っこ抜き、「このセット、あんたいらんかね。うちのものは興味がないから」と言うのでありがたくいただいておきました。
やがてそのバイトをやめ、遠方に引っ越して数年たった頃に、社長の急逝を知人を介して知りました。はっとして、しまいこんでいたカエルのフィギュアセットを出して眺めていると、のぞきこんできた父親が「お前…これ、象牙じゃないの?根付っていうんだよ」と。全く知らなかったのですが、かなり高額なものだったのです。
社長は長い事持病を患っていたようでしたから、私が在籍していた頃にはすでに生前整理の意思があったのではないでしょうか。遺品の形見わけに思え、そのカエルは手放さず、いまだ家に飾ってあります。